TEDOYA TOGO MONTAGE

Life is colorful.

小さな作品ではあるけれど、これだってものが書けて準備していたら
直前でNOが出て、ポシャってしまった。
なにかの呪縛とも言えるくらいの、ちゃぶ台返しでただただ悔しかった。
無理やり気持ちをおさめた。

種を植えても何一つ育たないというか、なんというか。
その土地との相性の問題なのか。まだまだ名のない自分の力のなさか。
「いいじゃないか。そんなのこっちから願い下げだ」
父・光男の言葉に救われた。

まだ出会えてない誰かに、これぞ求めていた作品だとまた言ってもらえるように力強く書きたい。

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母・幸子の命日である9月9日前後はソワソワする。
慣れだよなぁ、とは思っても
随分と月日が流れているのに、色々思い出したり、今やこれからの自分と照らし合わせたり。

あれから5年が経った。
今年は、台風が関東に上陸するという忘れがたい日にもなった。
来年、七回忌だという単語がズシリと重石のようで
これまた心が疼く。

あんまり考えすぎてもなと、
命日も大事だけど、やっぱり誕生日を大事にしようかなと思ったりして。

そんな時に、大切な仲間が亡くなったと報せ。
通夜の日に対面したその表情は、
お盆に、今となれば最後になってしまったお見舞いの時に
「トマトジュース飲んでくださいよ」
と笑顔で話していた人とは違う人に見えた。

哀しいとか、寂しいとか、
いつの時も遅れてやってきやがって。
なんとも言えない想いを胸に
「実はトマトジュース苦手なんだよね」
って言えなかった自分を少し悔やんでいる。

亡くなった、からではなく、
愛しい人のことはどんどん語ろうとまた新たに。

同名半盲となったのは、今から5年前。
朝起きたらテレビの字幕の語尾が
見えなくなっていた。

最初は前日に飲み慣れないレモンサワーを
飲みすぎての二日酔いかと思っていた頭痛が、
脳梗塞のそれだった。

二日酔いだと思って
1日そのまま寝てしまったのは、
今から思えば恐ろしいことだけれど
次の日会社に出勤する際、
駅まで向かう商店街を歩きながら
視界の右側に擦りガラスがあるような
違和感を自覚し、そのまま眼科に向かった。

この時点では自分の中で
普段から目を酷使したことによる
網膜剥離かなにかだろうと嫌な予感はしたが、
事態はもっとひどいことに、
というのはこの時点ではわからなかった。

眼科の診療の始まるまで時間があったので
サンマルクカフェで
呑気にチョコクロとコーヒーを飲んだ。
ただ、ここでもスマホの右端の文字が
見えていないことが気がかりだった。

健康診断ではやらないような
詳細な視力検査をすべて行ったあと、
「紹介状を書きますので、今すぐ大きな病院に行ってください」
という医師の言葉がふわっと耳に入ってきた。

言われるままにタクシーに乗り、
向かった大きな病院の受付で紹介状を渡すと、
車いすに乗せられ、行列となっている診察待ちの人たちの横を某テーマパークのファストパス並みにスルスルと抜けて行った。

CTスキャンと、
ついでにMRI検査もということになり、
診察室に戻った時は午前中の診療が終わって、昼休みに入って静かなものだった。

一番奥の診察室で、
脳の血管の画像を見せられて、
「脳梗塞です。中から血管が裂けていて、その先の脳細胞が死んでいる状態です。右側が見えないということも場所からして間違いないでしょう。気になるのは、記憶にも関わる部位なので、しっかり見ます。すぐに入院の手続きをお願いします」
想像をはるかに超えた告知だった。

二日酔いが抜けきれていないようなだるさはあるものの、麻痺も何もないこの状態が脳梗塞だとは思いもよらなかった。
入院着を着るまでは、笑っちゃうくらい他人事だった。
実家の母に「俺、脳梗塞らしいんだよね」なんて電話したくらいだから。

その後、1ヶ月に及ぶ入院生活で発症の時よりははるかに視界は改善しているが、5年経った今も全然欠けている。

光はあるけれど、
感覚としては右側が狭い感じ。
意外とこの状況を受け入れたのは、
入院してからすぐだった。

5年の月日で見出したこの視界の利点としては、
カフェの隣同士の感覚が狭い席に通されても
壁際の席に通された感覚になることくらいで、
実生活では朝の通勤時は女性のハンドバックを
右手でひっかけたことがあり、見た目は健常者と同じなので、場所がずれたら痴漢とされてもおかしくないという現象がつきまとう。
人の多いところでは、ぶつかることも多い。

そんなことを話したら
スタッフや職場の同僚から
ヘルプマークを勧められて着けている。
これも逆に心配される場面もあって、席を譲ってもらったりして申し訳ない時もあるし、
電車で朝から舌打ちされたり、
この視界を知った上での職場でも頭のおかしな同僚からの不要な暴力にもさらされて、
これらはすべてネタになる貴重な体験ということで割り切れるようになった。

結局のところ病気だろうが、
なんだろうが、捉え方次第。

背が大きい小さい、ハゲ、デブ、
足が臭いみたいなものの一つとして、
視界が欠けているんだと。

映画監督の視界が欠けているって、
まあ、他にはいないし、
皮肉が効いててある意味面白い。
そんな風にこの欠けた視界で
あざやかにこの世界を切り取ることにした。

一年に一度となった定期診断の時に、
医師からは毎度
「また、現状維持ですね」
と、まあ、言葉の通り。
少しくらい重石は必要だ。
できる限り健康で、ひとつずつ。

同名半盲って個人差もあるし、
なかなかメジャーではないので
わかりあえるくらい同じ症状の人には
まだ出会っていないけれど、
あの頃不安だった自分に、今まさに欠けた視界の片隅で思い悩んでいるあなたへ、
なんとか生きている2019年より心を込めて。
5年以内の再発も多いのが脳梗塞の恐ろしさ。
ということで、自分への重石として。

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なんだか昨夜は
久々に母のことをたくさん話した。
そして、バカみたいに自分を追い込んで倒れたあの日からちょうど5年が経った。

大げさでもなんでもなく、
個人的な命日である。
死んだ、というよりも
あそこで何かが終わった。
の方が感覚としては的を得ている気がする。

ドウメイハンモウ
変換して
同名半盲。
漢字にしても対して変わらんのだけれど。

後遺症という名の立派な重石。
視界が欠けても、
まあこうして生き延びた。

お互いよく生き延びたわねー
と言ってくれたのは
今度ご一緒する女優さん。
このタイミングで次の話をたくさんしたし、
おかげさまで楽しい時間を過ごせた。

1日の締めくくりに聞いたのは、
ikireの「moment」だった。

あの日のほんの少しつづきの新しい日々を
この欠けた視界とともに
たくましく生きてやる。

そして、今日は目的のない残業を提案されたので、断った。上司にとっての5年と違うのはあたりまえだけれど、簡単になかったことにできちゃうんだな、他人は。と。

今夜もまた新しい映画の準備である。
時間は尊い。尊いからこそ。
そのつづきをあざやかに。

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今年も「つるかめのように」を無料配信を行っています。
4/1(月)から12(金)までとなります。
今年はYoutubeに加えて、Amazonプライムでも同じ期間配信を行います。

桜咲く、はじまりの季節によろしければぜひご覧ください。


TEDOYA TOGO 春2019
「つるかめのように」
2019年4月1日 0:00〜4月12日(金)23:59

Youtube



Amazonプライム
https://www.amazon.co.jp/dp/B0787C4J1S/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_TfiPCbGMH7YXR


『つるかめのように』

高校入学の朝を迎えた歩。
朝食を作る母に、カメラをかまえる父。
食卓には母お手製の"不恰好な卵焼き"
そして、母が決めたへんてこな食事の号令から始まるいつも通りの朝。
静かな朝の風景に家族それぞれの想いが重なる。

大林宣彦監督に「1000本以上観た自主映画の中で最も好きな作品」と言わしめ、
主演に東京事変PV『閃光少女』、『UNIQLOCK』の石津悠を迎えた短編作品。

■出演
石津 悠、天田光子、中田顕史郎

■スタッフ
監督・脚本・編集:手塚 悟
撮影:山口 学
照明:福原 豊、米山美穂、武政沙和
録音:後藤わか菜
音楽:すけっち 酒井真美
メイク・小道具:千葉聖子
記録・制作担当:高橋美香
監督補:薄倉直子
企画・製作:Color Clips

2009年/カラー/ステレオ/14分

◆SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2009 短編コンペティション部門入選
◆西東京市民映画祭2009 観客グランプリ賞
◆ふかやインディーズフィルムフェスティバル2009 大林宣彦賞
◆第1回伊勢崎映画祭 上毛新聞社賞

東京はこの週末に桜が満開を迎えようとしていますが、
今年も「つるかめのように」を無料配信を行います。
4/1(月)から12(金)までとなります。
今年はYoutubeに加えて、Amazonプライムでも同じ期間配信を行います。

気がつけば2009年3月27日、今はなき渋谷シアターTSUTAYAで初お披露目されてから10年が経ちました。
スクリーンで上映される機会は減りましたが、映画祭という対外的な場所ではじめて評価された大切な作品で、時を経てこうしてご覧いただける機会を持てることはとても幸せです。

10年という時間の重みを噛みしめております。
みなさんにとって、この10年いかがでしたか。

桜咲く、はじまりの季節によろしければぜひご覧ください。


TEDOYA TOGO 春2019
「つるかめのように」
2019年4月1日 0:00〜4月12日(金)23:59
YoutubeおよびAmazonプライムにて配信
※配信URLは近日お知らせします。




『つるかめのように』

高校入学の朝を迎えた歩。
朝食を作る母に、カメラをかまえる父。
食卓には母お手製の"不恰好な卵焼き"
そして、母が決めたへんてこな食事の号令から始まるいつも通りの朝。
静かな朝の風景に家族それぞれの想いが重なる。

大林宣彦監督に「1000本以上観た自主映画の中で最も好きな作品」と言わしめ、
主演に東京事変PV『閃光少女』、『UNIQLOCK』の石津悠を迎えた短編作品。

■出演
石津 悠、天田光子、中田顕史郎

■スタッフ
監督・脚本・編集:手塚 悟
撮影:山口 学
照明:福原 豊、米山美穂、武政沙和
録音:後藤わか菜
音楽:すけっち 酒井真美
メイク・小道具:千葉聖子
記録・制作担当:高橋美香
監督補:薄倉直子
企画・製作:Color Clips

2009年/カラー/ステレオ/14分

◆SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2009 短編コンペティション部門入選
◆西東京市民映画祭2009 観客グランプリ賞
◆ふかやインディーズフィルムフェスティバル2009 大林宣彦賞
◆第1回伊勢崎映画祭 上毛新聞社賞

大杉漣さんの急逝に加えて、
テアトル石和が今月で閉館するという報せに自分の原点である場所だけに朝から哀しさと悔しさと色々な感情が入り乱れています。

また今度、またいつか
といって、その「再び」が約束されているかのように調子よく「今度飲みましょうね」なんてことを簡単に言ってしまいがちな自分のことを反省しつつ。

一寸先は闇と言いますが、
明日のことなんてわからない、なんて
あたりまえのことを書いちゃってますが、
だってその通りだもんね。

あぁ、亡くなったのね(無くなったのね)
あぁ、好きだったのに

そんなこと言う前に
お前はそこに通ったのかよ
お金落としたのかよ、と。

なくなってしまったら
本当に終わりなのだなと
なかったことにされかかっているプレミアムフライデーの昼にこんな文章書いちゃって。

このタイミングで明日は甲府で上映もあって、月に一度も機会をくださっているへちまさんに改めて感謝するしかないのです。
でも、それだけではいけなくて。
続ける以上はそれ相応の努力もやっぱり必要で。

映画館が閉まるということはそれはお客さんが来なくなったからという事実がそこにはあって、じゃなんで?と思い巡らせてはなんだかあまりよくない理由が並んじゃったり。

なくなったら終わりなんです。
とにかく。
僕の原点であるテアトル石和が幕を閉じることを決めたのです。

であるならば
今あるものを、今この時を
丹念に重ねるしかないと
サンマルクカフェのチョコクロを食べながら思いました。

とっちからった文章ですが、
月イチ上映会、ギアを上げていきます。

文化も人も大切に想う
そんな時間が過ごせるような場として。

人が来ない(と決めつけて)山梨で上映なんかするのやめようかな
じゃなく
行動にうつすしかさー。

続けていく人間は、辞めていった人の分まで背負わないといかんのです。
生半可な気持ちで
作ってます、だけじゃだめでしょ。

あーしみったれた文章だな、まったくもう。


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岡島百貨店の裏手にある文化のるつぼ へちまで毎月開催している月イチ上映会。

2/24(土)は特別編として、
私手塚と交流のある古波津陽監督が撮り続けている福島の記録映画1/10 Fukushimaをきいてみるを上映します。(山梨初上映)

なかなか伝わってこない震災後の福島の現状を最低10年間は撮り続けて毎年1本作品として発表するというコンセプトのもと、2017年末までに既に5本の制作がされている作品です。震災を扱っているからといって決して難しい内容や原発反対を訴えるような重々しい作品ではなく、そこに暮らす人々の今を切り取り、声に耳を傾ける記録映画です。故郷・山梨の皆さんにも7回目の3月11日を前にぜひ多くの人に観ていただきたいと考えています。
尚、本プログラムは無料上映(1ドリンク代のみご負担下さい)となります。

併せて私手塚の短編 「WATER」も無料上映します。
震災当日は「Every Day」の第一回目の打ち合わせが予定されていました。
当然のことながら打ち合わせは流れ、その後製作も延期することになりました。
日々の暮らしが揺らいだその時、心の奥底で感じていたことをあくまで男と女、目の前で相反する2つをフィクションとして描くことはできないか、と二人の俳優や信頼するスタッフと共に作り上げたのが「WATER」です。
(決して震災の映画を作りたかったわけではなく、結果的にその空気をまとった男女の話として臨んでいました)

特に音楽監督を務めてくださったmama!milkの生駒祐子さんはじめ、参加して下さった音楽家の皆さんは当時の空気感をまとったかのように命をかけたその演奏に突き動かされるように私手塚としては異例の再撮影と再編集を行いました。
他にも山梨を拠点に活動する画家の丸山真未さんに美術提供していただくだけでなく、のちに再編集した際には描画シーンを追加撮影させていただきました。
「Every Day」を作るにあたって、大切なステップとなった作品です。

東日本大震災は多くのこと、そして私たちの日々に影響をもたらしました。
私手塚と古波津陽監督も同様に自分自身の制作やその姿勢に至るまで見つめ直す機会となり、
それぞれ違うアプローチで作品として形にしました。
今回、甲府で同時上映できることを本当に嬉しく思っています。
我々もこれまでやそれでもやっぱりやってくるこれからの日々について上映後お話させていただきます。

今回のプログラム、またいつかはありません。
イオンモールやネット配信でご覧いただけない作品の存在意義が試されることになりますが、
故郷・山梨の人にぜひ見てほしいプログラムです。

今週末2/24(土)皆様のご来場を心よりお待ちしています。

【日時】
2018年2月24日(土)

【場所】
文化のるつぼ へちま 3階へちまSTUDIO
〒400-0032 山梨県甲府市中央2-13-20
TEL:055-236-5651

【上映作品・タイムテーブル】

224 ※各回29席限定 入替制
※別途1ドリンクオーダーとなります。

【ご予約・お問い合わせ】
文化のるつぼ へちま TEL:055-236-5651




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プロダクションノート バックナンバー
#1
  #2  #3  #4  #5   #6

グーチョキパー ビヨンド」には新旧のメンバーが勢ぞろいした。

主演はひろみとノブをバトンタッチする形となったいしいそうたろうさん、神部冬馬さん。
オリジナルキャストからは牛水里美さん、志村洋子さんが続投し、
じいちゃん役の小玉直治さんにも声だけだったけど、参加してもらえることに。

スタッフについても同様で、スケジュールを強引に合わせてもらったEvery Day手塚組精鋭部隊の照明・櫻井えみさんを招集。
山梨からは手塚より一世代下になる若手の神宮司健監督に監督補として参加してもらえることに。
撮影から助監督、車輛に機材、のちに編集までお願いすることになり、
彼がいなかったらビヨンドは間違いなく完成できなかった。
神宮司さんを引き合わせてくれたのは、高校の演劇部OGのといっても一回りも下のつるちゃんこと、鶴岡悠さん。献身的なサポートをしてもらった。
シナリオで直前まで悩んでいた手塚を支えてくれたのは、本業は俳優のかんちゃんこと、函波窓くん。お正月の鵺的の現場でのフットワークのよさを買って山梨に招集した。
さらにみっかる.TVの皆さんの全面協力を得て、あわただしく準備がはじまった。

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ロケハンでは懐かしい撮影現場と再会しつつ、現実に落とし込む作業。
クライマックスシーンの撮影場所選定が課題だった。
結婚式のシーンを書いといてなんだが、
書いている時から縮こまっていたらいい形にはならない。

いい場所が見つからない場合の想定や設定変更も一応横に置きつつ、
色々なご縁で誓いの丘イストアール、アイブライズさんにご協力を頂けることになり
現場の士気はますます高まった。


3月半ば、13年前の「グーチョキパー」でも象徴的なシーンで登場した直線道路からクランクインした。
茜とノブが再会するシーンである。
薄い晴れと曇り空が交互にやってくる感じが今回のビヨンドを表していた。

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週の頭の月曜日から5日間にわたって山梨県南アルプス市を中心に撮影が行われた。
暦は春と言えど、外は八ヶ岳おろしという強烈な北風が吹く極寒の状況。
というか真冬だった。

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いしいさん、神部さんはレギュラー番組の合間を縫って連日朝早くから夜遅くまでの撮影となった。
昼間のシーンの撮影は順調に進みペースがよかったものの、見せ場となるループ橋のふもとのナイトシーンには天気が味方せず2日連続で延期となり、さらに夜用の機材返却というタイムリミットが迫り、さすがに心が折れそうになった。
が、そのタイミングで卒業制作の相方、たなりゅうが東京から駆けつけてくれた。
数シーンだったけれど、たなりゅうのおかげもあり、極寒の山場をなんとか乗り越えることができた。

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撮影最終日は結婚式シーンに県内のボランティアエキストラの皆さんも参加していただく等、様々な方の協力のもと、なんとかクランクアップを迎えたのだった。

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ところがその直後、大変なことになった。

撮影終了後に新聞取材を受けているそばから寒気が止まらない。
クランクアップと共に緊張が解けたのか、自分の体の熱を感じていた。
インフルエンザだと諸々よろしくないので、打ち上げの前に念のため夜間診療の病院に行くことにした。

体感時間では待合でとてつもない時間待たされた気がするが、
計ってみれば熱が40度近くあり、予想通り風邪かインフルエンザかと思っていたら
何やら医師たちの様子がおかしい。

汚い話、撮影後半はずっと便秘だった。
久しぶりの撮影に体が緊張しているのは自覚していたが、
しまいには食欲もなくなって、最終日は昼の弁当がほとんど食べられなかった。
これまでと同じように撮影による緊張からのデリケートな体の反応かと思っていたら
どうやらこの便秘が元凶らしい。

ベッドで点滴を受けていると
どこかに電話をかける医師の声が遠くから聞こえてきて
「盲腸の疑いが非常に強い」
「腹膜炎起こしてる可能性も」

どうやら盲腸の、それもあまりよろしくない疑いが高いということで
そのまま大きな病院に向かうことに。
移動は人生初の救急車だった。

あれよあれよと、そのまま緊急入院となった。
3年前の入院がデジャヴのように押し寄せた。
あの時と違うのはあきらかな体の不調を自覚していることだ。
体感的には脳梗塞よりしんどい。

体調は万全にして臨んだはずなのになぜまたこうなるのか。
ベッドの上でOS-1のみ許される状況で天井を見上げるしかなかった。
というか、OS-1がポカリスエットみたいに甘くてうまい!(本来はしょっぱくて、これ結構やばい症状らしいです)
ナースステーション真ん前の個室って、どんなやばいんだよ、と。
数時間前の撮影現場が幻のように思えた。

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翌日、腹腔鏡による手術が行われた。
無事に手術が終わって麻酔から目が覚めるとうちの父・みつをがiPhoneでしかも動画で撮っていた。
状況が許されるならぶっとばしたいところだが、
いつのまにかiPhoneの操作を覚えている姿を見て、なんだか面白かった。

と次の瞬間妙に冷静になって1ヶ月後に迫った上映会の宣伝は自分が動けないし、
もっと言うとビヨンドの編集作業を止めてしまった。
今さら中止はありえないし、この状況をどうやってたて直すか。

といっても選択肢はそこにはほぼなく、編集を監督補の神宮司さんにお願いするしかなかった。
断ることもできたのに、編集を引き受けてくれた神宮司さんの男気に本当に感謝である。

とにかく体を復活させて、退院しないと何もできない。
時折届く関係者からのLINEが本当に力になったし、
復活したらやったるぞ、とそれしかなかった。
ベッドの上でやることはほぼないので、イメトレだけは入念にしてその時を待った。

10日間の入院を経て退院すると、その直後から編集と音楽制作、さらに宣伝活動が始まった。
待ったなしなのである。
しかし、体力の落ちた状態でこれが本当に大変だった。
お風呂で貧血で倒れそうになるし、食べても食べても体重が落ちるし、何かにつけて眠い。
体は本当によくできている。

時は上映会まで3週間を切ろうとしていた。
先行で編集を神宮司さんにお願いしていて本当に正解だった。
音楽作業についても実家の珠算塾に撮影時から詰所として組んでいたので、
そこに機材を持ち込んでもらい作業することに。

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映像尺が決まっていない状態で
音楽のあきさんには大変なご無理を言いながらも
オリジナル曲に加えて、トミーさんの作ってくれた13年前の音楽をベースにコード進行やアレンジを変える形でビヨンド用に進化させてもらった。
テンポやアレンジについてもわがまま言わせてもらったけれど、要求よりもはるかに期待値を超えて返ってくる楽曲たちに編集は背中を押されることになった。
個人的には本編中盤のギターの曲とエンディングが今回のお気に入り。

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4月になり東京はユジク阿佐ヶ谷、神戸は元町映画館で「Every Day」の上映があり、
山梨アンコール上映会の宣伝も本格化し、その合間で編集作業を進めながら
都内でじいちゃん役の小玉直治さんの声を収録した。
200歳まで生きる、と変わらない笑顔で語ったチャーミングな小玉さんに元気をもらった。

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その後デジタルの恩恵を受けて神宮司さんとデータをやりとりしながら編集や一部追加撮影が行われ、
上映会前日の上映会スタッフ向けの試写を経てのそこから感想をフィードバックして最終調整がギリギリまで行われ、上映会当日の朝に「グーチョキパー ビヨンド」は完成した。

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誤解を恐れず書くと、
最初はもっと肩の力を抜いたおまけみたいな形にさえなればいいとどこかで思っていた。
が、蓋を開けてみればそれは「Every Day」以来の作品制作で、
皆で本気で挑み、結果、きちんとした形となったのが本当に嬉しかった。

いしいさん、神部さんの他では普段見られない一面が焼きつけられた気がする。
内容についてはグーチョキパーしばりだったのもあって限りはあったけれど、
いつかまた違う作品で二人を撮ってみたい。
牛水さんの演技の深化、洋子さんの変わらなさも抜群だ。
サポートしていただいたみっかる.TVの皆さんの本領発揮というか、
それぞれが違う分野のプロフェッショナルであることから大人の遊びというか余裕みたいなものが作品の間口を広げてくれることになり、図らずも無意識に、新たな自分の扉を開くきっかけとなった最新作が完成したのである。

また10年くらいしたら最終章を。
なんて未来は少しデキすぎのような気もするけど、
ビヨンドの最後のカットは間違いなく、その先を示している。



ということでこの度、11/4(土)からはじまる「Every Day」のテアトル石和での興業初日に「グーチョキパー」「グーチョキパー ビヨンド」を特別上映して下さることになりました。
13年前の作品とセットで短編の作品がホールではなく、映画館にかかるのは本当に奇跡です。
たくさん見に来て下さるともしかすると、最終章が長編として本当に企画されるかもしれません。
原点と最新作である「グーチョキパー」2作もEvery Dayと併せてお楽しみいただけたら幸いです。


おわり。
のようで、つづく。


山梨・テアトル石和
2017.11.4(土)〜11.17(金)
※タイムテーブル、ゲストの詳細は劇場までお問い合わせください。



【イベント情報】

11/4(土)19:00〜
初日舞台挨拶+「グーチョキパー」「グーチョキパー ビヨンド」特別上映
※終了後、懇親会あり



11/5(日)13:00〜
シネ婚「Every Dayなシネ婚」

11/11(土)19:00〜
未公開映像集DX(関東初)

11/12(日)
女子力全開コメンタリー上映(関東初)


【お問い合わせ】
テアトル石和
〒406-0023 山梨県笛吹市石和町八田291
電話: 055-262-4674

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プロダクションノート バックナンバー
#1
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2017年の年明けは
ロケットスタートだった。
演劇ユニット 鵺的のトライアル公演vol.1「フォトジェニック」の映像パートを担当することになった。
年末の関西での「Every Day」の上映の前後はその台本を読みながら女性を殺し、その死体写真を撮っているというカメラマンの話に頭の中のモードを切り替えていた。
年明け早々に舞台の本番があるため、帰京後のクリスマス、年末年始、大晦日返上してひたすら撮影だった。

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もちろんその横には
「グーチョキパー2(仮)」のことも頭にはずっとあった。

ひろみ、ノブ、茜はあれからどう生きてきたのだろうか。
それは反面、自分がどう生きてきたかも含めて晒される、そんな覚悟も持ちながら
舞台公演も終わり、やけに冷え込む極寒の2017年1月半ば、職場のパソコンに立ち上げているメールソフトに向かっていた。

実はEvery Dayの頃から企画書やシナリオを職場のOutlookのメール本文に一度書き出すという習慣がついてしまった。
それをプリントアウトして、もう一度清書するように再度打ち込む、という面倒な手法でもあるけれど、慣れてしまえばなんとやら。環境がいつしかそうさせた。だからか、最近はいきなりWordの画面を見ると手が止まってしまうくらいだ。
5分、10分のちょっとした作業の合間でコツコツ書いていった。

第一案として書いたのは、再会の話。
それぞれ一人ずつ会うことはあっても3人がまったく揃わないというもの。

あらすじはこうだ。
ひろみはそれなりに認知度のあるお笑い芸人になるも挫折し、地元に戻り、スーパーでアルバイトをしていた。ノブはあれから実家の店を継ぎ、デザインした手ぬぐいが世界的に評価され、今や時の人になっていた。そんな中、高校時代の同窓会が開かれることとなるが…。というもの。
クライマックスで茜が都会から帰ってくるが、3人が会うことはなく、俯瞰で見ると南アルプス市にそろっているというなんとも言えない悲壮感漂うお話だった。

スタッフからは即却下だった。
アンコール上映会で、この終わりはよろしくない。と。
おまけにグーチョキパー感がない、らしい。

こちらからすると、
グーチョキパー感とはなんぞや?
である。

ある程度年齢を重ねると
同級生や仲間が集まるとなれば、
その機会は限られてくる。
そしてその再会の場が
誰かの不幸であったりもする。
残念な日常への負い目というのか、
逃げというのか。
しばらく仕事のなかった
卒業直後の自分をふと思い出した。

ひろみ、ノブ、茜だって同じである。
地元でこの3人が集まる理由となれば、
成人式、結婚式、同窓会、お葬式。
さらに限られてくる。
予算やスケジュールの観点からも短編でいくとなれば、シンプルかつ濃縮還元でいくしかない。

言ったものの、問題を乗り越えるアイデアになかなかたどり着けないでうんうん唸っていると、
見かねたとあるスタッフが「ノブと茜が結婚するってのはどうでしょう?」と言った。

いやいや、あの二人の結婚は一番ないよ。
と即、否定して返した。

ん?ちょっと待て。
友人代表のあいさつでひろみがしゃべっている姿が浮かんだ。
調子こいて、自分の言葉に酔いしれている。
それをノブと茜が優しく見守っていて…

ダメ元で書いてみてくださいよ、
というスタッフの声にのせられるようにして書いたらこれがあっという間だった。

途端にあの3人の未来が見えてきた。
3人に加えて、かかせないのは姉の洋子だし、じいちゃんだ。
となれば父と母はまた旅行に行っている?
洋子の家族は登場する?

先行で久しぶりに志村洋子さんに電話して、
スケジュールを確認しているだけなのに
食い気味で出演快諾されたものだからさらに筆は進んだ。
そうか、これがグーチョキパー感か!
少しずつ続編の世界観が広がっていった。

初稿が書けたところで「みっかる.TV」に出演することになったので
メインキャストの顔合わせも兼ねて牛水さんと一緒に山梨に向かい、本番終了後の深夜に本読みを行った。
声を聴いて、監督の自分よりも同行していたうちの父・みつをが
「あの3人だ」と口走った。

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この時、牛水さんとも思わず目を合わせたくらい
いしいさんと神部さんが、ひろみとノブとしてそこにいたのだ。
と、ご本人たち、特に神部さんはいつも自分はノブをやっていたそねちゃんには似ていないというが、
見た目こそ確かに違うかもしれないけれど、声の響きや内に秘めている雰囲気がキャスティングの決め手だった。
(これ言っても信じてもらえないけど、本当です)

というか、似ている似ていないでそもそも選んでいない。
いしいさん、神部さんが役を引き継ぐことについては誰が何と言おうと、
どうしても2人で撮りたかったし、その絵がイメージできたからやることにしたのだから。
本読みから手ごたえを感じて、リライトの時は終始テンションが高かったのを覚えている。

立春を過ぎる頃、上映会のチラシの入稿〆切に合わせて
タイトルが「グーチョキパー ビヨンド」に正式決定した。
さあ、はじまる。

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つづく。
次回、10/31(火)最終回(予定)です。

山梨・テアトル石和
2017.11.4(土)〜11.17(金)
※タイムテーブル、ゲストの詳細は劇場までお問い合わせください。



【イベント情報】

11/4(土)19:00〜
初日舞台挨拶+「グーチョキパー」「グーチョキパー ビヨンド」特別上映
※終了後、懇親会あり



11/5(日)13:00〜
シネ婚「Every Dayなシネ婚」

11/11(土)19:00〜
未公開映像集DX(関東初)

11/12(日)
女子力全開コメンタリー上映(関東初)


【お問い合わせ】
テアトル石和
〒406-0023 山梨県笛吹市石和町八田291
電話: 055-262-4674

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